猫女にタケノコもらわなくてよかった!

         猫女にケノコもらわなくてよかった!
  
 去年の、とても冷え込みがきつかった十二月中旬のこと。
 わが家の横で猫が鳴いていた。ただならぬ鳴き声。出てみると猫女の子猫だ。傍には吐しゃ物がそちこちに。具合が悪いらしい。お掃除してクレゾール液で消毒した。だって、ガレージなのよ。うちの猫の脱走経路だ、もしも、ニヤンタが感染したら困る。
しっ。しっ。怖い顔したら逃げて行った。逃げ戻った先が猫女の家。
 しばらくすると私道をはさんだお向かいの家の横で子猫の鳴き声、ただならぬ鳴き声だった。リビングの窓からのぞくと真正面に三毛の子猫がいて、私と目があった。ひときわ哀れな声をはりあげて鳴く。
あっ、捨てられたな。
 猫女が放し飼いにしていた猫が産んだ子猫だ。仲間の猫たちが遠巻きにして子猫に向かって鳴いている。けれど猫たちは決して子猫に近寄らない。病気で隔離されたことを知っているらしい。
 この寒さ、あんなに鳴き続けて……明日には凍えてしんでしまうに違いない。
もう一匹飼えないのです、それにその子猫を引き受けるとこれから先、何十匹もの猫を引き受けるはめになるのです。仲間の猫たちはそのうち、猫女のところへ餌をもらいに引き上げて行った。
 子猫は弱弱しく泣き続けた。
 辛い夜だった。
 辛い夜があけた。
 同窓会に出席するために表にでると、あの子猫は生きていた。猫女夫婦は不機嫌そうにあの子猫を車に積み込んだ。捨てに行くのだ!
 胃潰瘍の治療中だったので同窓会の二次会を断った。帰路、近道するために大きな公園を横切った。すると、公園の木の下であの子猫がじっとうずくまっていた。運命を悟ったかのような静かな大きな目を開けて。
 だれかに拾ってもらえ。それが猫女の処世術らしい。
 今年の五月、いつになく上機嫌な顔で猫女が声をかけてきた。
「あんた、タケノコ食べへんか」
「私、タケノコ料理が下手やから」
 そう、断った。
 どこで取ってきたタケノコだかわからない。猫を捨てた公園にもタケノコがいっぱい生えていたものね。
 もらわなくてよかった。
 ぞくぞく猫の出産ラッシュ。
 わたしたちの一角は子猫がばらまかれ、雨に溶けたキャットフードだか汚物だか、お掃除が大変だった。しっしっ。私は正直だから声を出してしまう。でも、他の人は黙ってぱっと水をかけている。
 
 今日、また猫女の猫、大きなお腹で大儀そうによたよた歩いていた。
子猫が好きなんだ、猫女は。で、病気になると医者へは連れて行かないで、他人に面倒みさせようとする。
 猫もやるせない、人もやるせない。