魔物から護ってくれた真珠の首飾り

          魔物から護ってくれた真珠の首飾
 
 ちょっと怖くて不思議なことなのですよ。
 わたしの知り合いの、名前はA子さんとしておきます、仮名で見知らぬ人を傷つけてはいけませんからね。
 A子さんはちょっと事情がおありで昔、お子さんと一緒に古びた長屋のような木造アパートに住んでおられた事があります。
 じめじめして陰気臭い建物だったので、はじめは二の足を踏んだそうですが、アパートの周旋屋さんに
「あんた、なにか事情がありそうやけど、はじめから無理したらあかんで。お金貯めて綺麗なとこへ替わったらええやないか」
と、諭されて納得したそうです。
 二人のお子さんのお世話とフルタイムのお勤めで、毎日があわただしく、寝床に入るとバタンキューと眠りこんでしまったそうです。
 
 A子さんはその夜もぐっすりと眠りこんでいたはずだったといいます。
それなのに、A子さんはお布団のなかで目をあけているのですって。
黒い煙というか、雲のようなものが霧のようにたちこめてきて、じわじわとA子さんの寝床に迫ってきて、ついにはA子さんの寝床をとりまいたそうです。
胸が苦しくて、何かにのしかかられて押さえこまれているような感じで息がとまりそうになったそうです。もがこうとしても金縛りにあったようで、体が動かない、仰向けになったまま、顔のうえまで迫ってきた黒い霧のようなものをじっと見つめていたそうです。
 ああ、わたしはこのまま得体のしれないものにとり殺されるのか、子供をおいて死ねるもんですかと涙が流れたそうです。その瞬間でした。 
「バシッ」
 大きな鋭い音が響き渡った。
 なんの音かさっぱりわかりません。その音をきっかけに黒気、でしょうかそれがすっーと消えていったそうです。霧が晴れるような感じだったと伺いました。それと同時に、胸の苦しみも金縛りもすっかり消えていたそうです。
 翌朝、起きてみて驚いたそうです。
 整理ダンスの開き戸が開いていて、その中にしまってあった真珠の首飾りのケースが畳みのうえに落ちていたのです。そればかりか、ケースはふたがあいていて、首飾りの糸がちぎれていて、真珠の玉が布団や畳の上に散乱していたからです。
あのときのバシッという音は、首飾りの糸が千切れた音だったのだ。
A子さんは、そのとき、あれが夢ではなかった事を悟ったそうです。
 真珠は本物でうすいクリーム色でしたから、ゴールドというのでしようね。二十歳の誕生日のお祝いにご両親からプレゼントされたもので、彼女のお母様は、
「魔物から護ってくれたのだね」と、その真珠をみて涙を流されたそうです。
 その真珠の首飾りはA子さんの宝物になったことは言うまでもありませんし、お金をためて三年後には、便利で明るい感じのところへ引っ越されましたよ。