引き裂かれた恋人たち
引き裂かれた恋人たち
下野してしょぼくれていた自民党はこのところ意気軒昂である。
そのニュースを聞いて、心の中のもやもやが晴れないのだ。なるほど五年間で二十五万円の献金、厳密にはいけないことだ、政治の素人ととしかいえない。あまりにも無防備である。
故人になられた橋本龍太郎が首相を務めていた頃、中国人女性との隠し子問題で週刊誌を賑わせたことがある。橋本氏は根も葉もない噂として否定した。橋本夫人までもがにこやかに否定し、事は藪の中に。
この騒動から数年後、わたしはツアーで北京にいた。天安門広場で天安門を見上げながら、しみじみとあの門上から下を見下ろす気分は……なんだ、これは歴代皇帝が民の前に姿を現す構図ではないかと思って、ぞくっとしたものである。
ツアーの添乗員(彼女はただの添乗員ではない。小さいながらみずから行き先を企画して人を集め、零細な旅行社に売り込むのだ)が、北京の日本語ガイドに尋ねた。
「橋本龍太郎(敬称略でごめんね)は中国に愛人がいるって本当なの?」
「本当よ」
「えっ。いないと否定しているけど」
「そんなの嘘だよ。ガイド仲間では有名な話だよ。彼女、日本語ガイドだよ。すらっとした背が高いきれいな娘だったよ。髪が長くてね。ぼくらもよく知っている。橋本総理が中国にきたとき、彼女がガイドに選ばれたよ」
「え、えっ」
「見そめられて無理に夜の相手させられたらしい」
「なぜ断らなかったの」
「断れないよ。国家の命令だから。気の毒に彼女、婚約者がいたのに」
その女性は囲い者になり、中国政府の警護のもとに暮らしているとのことで、男の子を産んだという。
日本ではいないといい、中国ではいるという。真相はどこにあるのだろう?
しかし、したたかなあの中国が、何の見返りもなく至れりつくせりのサービスをするのだろうか?
橋本龍太郎が鬼籍に入って久しい。国家によって引き裂かれた恋人たちはどうしているのかしら? 幸せであって下さいと祈ると同時に、もしかしたら彼女、いまでは女実業家にでもなって……なんて想像してしまいます。
自民党も叩けばずいぶんと埃がでるだろうな。