猫の神様

イメージ 1

写真は二週間前に知人の子供が拾った猫
猫捨てないでネ 箱を見るとおびえて鳴くそうです
同じ飼い主が捨てるらしく、三年前にもそっくりな子猫を同じ場所で拾ったとか…

ずっと昔のことだ。猫守は猫になめられていた。
猫守を見ると、野良猫がふやけた顔ですりよってくる。おや、おかえりって具合に。
近くにスーパーマーケットがあって、餌にめぐまれていたのか、いやに野良猫が多かった。
「ここらの猫は態度でかいわね、ちっとも人間をこわがらないのだから」
そう思って猫にはかかわらなかった。さわってノミなんかうつされたら嫌だもの。で、知らんぷりしていたのだ。
けれども猫ときたら、猫守になみなみならぬ関心があるらしく、猫守の顔を見ないと気が済まないらしい。窓からぬっと顔をだしてニャアと挨拶していく。猫になめられていい気はしない。内心いまいましかった。買い物に行くために、自転車に娘と二人乗りしていたら、背中にくっついた娘が
「ママの服、お魚のにおいがする」という。ええっ!
その頃、猫守は、鰻とアナゴを扱う会社で事務をしていた。作業場と事務所は離れていたが、毎日、アナゴのうろこだらけの現場にも出入りしなければならない。
--ああ、それで。
猫がうれしそうにすり寄ってくる謎がとけた。

そんな猫の群れのなかに、上の写真くらいの子猫をつれた成猫がいた。二匹はいっも一緒だった。牛のようなマダラ模様までそっくりだった。
昼下がり。
急ブレーキの音。
何かがぶつかる音。
車が急発進する音。
悲痛な猫の鳴き声。猫が車にひかれたらしい。そのうち鳴きやむだろうと思っていたが、鳴き声はしつこく続いた。
表に出てみるとあの二匹だ。血まみれの子猫が息絶えて横たわっていた。あの親猫は鳴きながら子猫を舐めて、起こそうとしていた。親猫の血まみれの口が哀れでもあり、恐ろしくもあった。
どうしようか迷った挙句、猫の遺骸の引き取りを市役所に依頼した。休日の収集はしていないが、持ち込みしてくれるなら引き取りますということだった。段ボールに子猫を入れて、ついでにお菓子も入れると、親猫は「この子をどこへ連れて行くの?」と段ボール箱にしがみつく。
そのとき、猫のお尻が丸見えになった。みて驚いた。母猫じゃなかった!立派な雄猫だったのだ。
竹輪をうんと奮発してその雄猫をなだめ、自転車の荷台に段ボール箱をくくりつけた。自転車が動きだすと、あの雄猫はまた悲痛な声で鳴きながら荷台にとびつく。二時間も鳴きつづけて、しゃがれかかった声で。
猫ながら情の深さに心打たれた。

それから三日たった夜、猫守は夢をみた。黒豹のような大きな猫のまわりに、おおぜいの猫が身をよせあっているのだ、そのなかにあの子猫がいた。黒豹も猫たちもみな、じっと猫守を見つめていた。
ただ、それだけの夢である。
でもなんだか、あの黒豹は猫の神様で、子猫のこと「世話をかけた」と言っているように思えるのだ。