将軍様と超常現象 その東アジア的風土

        将軍様と超常現象 その東アジア的風土
 
 テレビのニュース番組で、北朝鮮では将軍のことを将軍様というと笑いの種になっていた。
 朝鮮語もしくは韓国語では尊敬する人には様をつけねば失礼にあたると聞いたことがある。だから先生のことは本来ならばスンセンで良いのだがスンセンニン(先生様)と呼ばなければならないと教わったことがある。韓国語は階級区分が厳しい言語だとも教わった。だから当然のことながら、最高権力者として尊敬されねばならない将軍も至極当然のことながら、将軍とは将軍様と書かれ、発音されるのだ。あの国の民とって、それが日本で笑いの種になるという意味がわからないだろう。
 
 
 北朝鮮ではよく将軍をたたえて、白い狸が、あるいは白い狐、白い烏などのたぐいが地方から献上されたというニュースが流れる。それもまた日本のテレビのワイドショーをにぎわす。
 これは中国の史書の伝統を踏襲したものである。
中国の史書には国内に善政が行き渡ると白い狸や狐、烏のたぐいが現れると記されている。
 北魏から禅譲を受けて北斉を興した高洋のもとに、「天が天子を嘉して赤い雀を遣わしましたぞ」と、地方から赤雀を献上してきた。ほほう、これが赤い雀かと高洋が喜んだのもつかの間、赤い色がはげて、ごくありふれたただの雀になってしまった。
天子に媚びて、雀を捕まえてきて赤く染めたのだ。囚人たちに筵の羽根をつけて銅雀台のうえから飛ばせた残虐な高洋だが、不思議と偽の赤雀事件を怒らなかった。
この伝統は犬をピンク色にそめて売り出したりする中国のペットショップで健在だ。
 
 北朝鮮白頭山カルデラ湖の氷が裂けた、青い稲妻が……この類は話はやはり中国の史書に、天子や皇后が崩御する予兆として日蝕や月蝕、地震や中国天文の占星術にさまざまな記録が記される。また、韓国の歴史書である『三国遺事』には王が亡くなる兆しとしてさかんに地震の記録がみえる。ところが韓国人に聞くと、韓国は地震が無い国だという。そのせいか、丘陵の上にやたらとノッポのマンションがそびえている。すると『三国遺事』の地震の記載は王の崩御(用語としては薨去が正しいのだろうか?)の予兆だったのか? そういえば被害の記録がなかった。
 
さて北朝鮮に話をもどせば、「天子にも等しい将軍様がお隠れになったのだ」、これは世界の没落である、この世の終わりの皆既日蝕に値する一大事だ。中国の古代では日蝕があると「天が為政を咎めている」として三公は辞任した。のちには天子が崩御する前兆であった。高洋の父である高歓は病床にあって日蝕のしらせをうけ「ああ、これはわしのことじゃわい」といって薨去したとある。
 
 現代社会において、将軍様が亡くなるまえに日蝕があったと発表したら「嘘こくでない」と叩かれるから、革命の聖地とされる白頭山の異変をこしらえたらしい。これらの事を鑑みると、北朝鮮鎖国を解かなければ、いつまでも旧態依然とした史書の形式を踏襲し続けるはめになるだろう。