あの世からのメッセージ、あなたはどちら?

           あの世からのメッセージ、あなたはどちら?
 
 少し体調が悪いくらいならそうではないのだが、
熱が出て寝込むくらいの、つまり病気になるときは、必ずといっていいが亡くなった母が夢に現れる。
 夢から覚めると、ぼんやりして体が怠い。怠いなと思っているうちに寒気がしたり高熱が出るのだ。
 
 父が存命中に、「お母ちゃんの夢をみた。心配そうに私をみていたから、きっと私、病気するわ」というと、父は別に驚いた様子でもなく、「そうか。おまえはお母さんの夢だな。お父ちゃんはな、私のお父さんだ。夢にお父さんが出てきて心配そうにじっと見るんだ。すると病気で寝込んでしまう」と、いう。
 父のお父さん、つまり祖父は父が少年時代に亡くなっている。若死にである。だから残してきた子供たちのことが心配でならないのかしら? 親の愛情は幾つになっても忘れがたい。亡くなってもあの世から見守ってくれているだなんて涙が出そう。

 病気で入院したことがある。もう、両親は亡くなっていた。もしも、両親が生きていたら、私が手術を受けなければならないと知ったら、おろおろして嘆き悲しんだことだろう。
 違う、と言うのに家族は私がガンだ騒ぐ。呆れて物も言えない。
 手術を無事に終えて、病院のベッドで寝ていると枕元の電話が鳴る。なんで電話が? 不思議にお思いだろうが、個室に入っていたのだ。大部屋で家族に騒がれたらだめだからね。麻酔もさめやらぬ朦朧とした状態で受話器に手を伸ばす。
「もしもし」
「……間違えました」
 ガチャンと電話が切れる。
 この間違い電話が毎日のように続く。殺生やで。麻酔が切れてからは痛いのだ。お腹に力なんて入れたら傷口が開くじゃない。
 ああ、情けない。心細い。なんの嫌がらせだ。
 お母ちゃん。お母ちゃん。お母ちゃんが生きていたら、心配して私の側を離れないだろうなぁ。
 まだ頭洗ったらあかんけど、かゆいわ。そろそろと歩いて、部屋の隅の洗面台で(個室だから、お湯がでます)髪を洗った。おお、まだふらふらするけど倒れなかった。
ああ、さっぱりした。と、何気なく背後を振り返った。ほんと、何気なく。
 あっ。お母ちゃん。
 母が立っていた。
 母はびっくりしたような顔をしてぱっと消えてしまった。
 母はあの世から出張してきて、ずっと私に付き添ってくれたらしい。でも、私に姿を見られて消えてしまった。退院するまで何度も背後を振り返ってみたけれど、もう、母の姿は見えなかった。