同情するな!そんな男は棄てなさい

 同情するな!そんな男は棄てなさい

 私はオーダー専門の紳士服店で働いていたことがある。
私の仕事は、お店の受付に座り、電話応対、接客、レジ、簡単な事務と掃除にお茶だしなどだ。
 店は大阪ミナミの歓楽街にあり、近くにはヤクザの組事務所があった。
 場所柄、お客はホストさんや吉本の芸人さんにヤクザが多い。 店の人はヤクザのことを「ペケポン」と呼んでいた。
。「どうしてペケポンなの」「そら、顔に」と、言って指で頬に×印を描いて刃物傷だ。なるほど、ヤクザにはよう似合う。

 ホストの男前度はいろいろで、月に十着くらい貢がれる人気ホストの一人は、「ごくごく普通のお兄さん」のように思えた。少し野暮ったい風貌でもある。九州なまりが残っていた。
「あの人、そんなに男前とも思えないけど?」
「そらなぁ、あいつはやさしいねん。それに女あしらいが上手いそうやな。あいつら、体が丈夫やないと勤まらへんから」
 いつも採寸している職人さんが、好奇心のかたまりのような私に教えてくれる。
「なんで丈夫やないとあかんの?」
「あほ、想像せぇ」
 職人さんはにたっと笑う。いやらしい笑い。

 なんでもお金の世界、ホスト買いをする女は払ったお金に見合う濃密な夜を要求するそうだ。さもあろう、十円や百円の価格勝負でチラシを眺める女たちだ。
その人気ホストが親子ほど年の離れた女性同伴で服を誂えに来た。女性は手芸教室からの帰りか、造花を大事そうに抱えていた。
そのホストと女が帰ると職人さんがささやいた。
「あの女は医者の奥さんやで」
「えっ。お医者さんの」
「そや、旦那に相手にされへんからホストクラブ通いや」
「ふーん」
 今にして思えば、そのときにわからなかった彼女の心境がよくわかる。子供は巣立して、旦那には愛人がいる。 過ぎし日々のことをともに語る相手もいない。ホストに夢中になって青春をとりもどしていたにちがいない。べたっとくっついて、あれやこれや世話を焼く。焼かれるホストはそれを楽しんでいた。まるで孤独な魂と魂がよりそっているような気になってしまう光景だった。そんなホストもおれば、店で女を小突き回して服を作らせるホストもいたっけ。

 前置きが長くなった。
 人懐こいハンサムボーイが店を出ていった。目が大きくて睫毛が長い、乙女チックな美貌だ。
 「今の客、ヤクザや」
 彼をにこやかに見送った職人さんがいう。
「ええっ。信じられない。あの若さで誂え服でしょ、ホストかなと思ったわ」
 びっくりした。ヤクザのヤの字も感じなかった。
「あの客、組員でスケコマシが担当や」
「はあ……スケコマシ?」
「うん。金持ちのボンボンにみせかけ、ギャンブルにうちこむ。それで金がなくなるわな、ひっかけた女に泣きつくのやな。勘当されるとか指つめなあかんとか」
「女が自分の貯金をはたく。おんなの貯金が底をつくと、ヤクザに殺されるとか言うて、女をトルコ風呂に売り飛ばすのや」
「へえ。女の人、なんで逃げへんのん」
「そら、体の関係つけられると女は弱いらしいで。金を貢ぐ段階で惚れ込んでしもとるわ。それに、この人を救えるのは私しかいないと思い込むのやな」
「へえーっ。母性愛なんや」
「そや、それやで。やさしさにつけこみよる」
「ふーん」
「あいつ、十人ほど女をトルコ風呂に売ったと自慢しとった。毎月、女たちから集金して組に納めとる」
「えっ。女の人たち、恨まへんの?」
「みんな、あいつのために喜んで働いとると自慢しとったな。なんせ女を喜ばすためのテクニックがあるそうや」
「いやらしいわ」
 私に睨まれて職人さんはあわてて自分の持ち場に戻った。

 後日、この乙女チックな美男子は嫁さんと子供を連れてまた服を誂えに来た。
彼のハーレムの女たちは彼に嫁さんと子供がいることをご存じだろうか?

 「ご主人、お若いのに高給取りでうらやましいですわ」
 お勘定のとき、その奥さんにお愛想をいった。
「仕事にいかなかったら私、怒鳴りつけて仕事にいかせますのよ」
 奥さんはそういって私のお愛想に答えてくれた。????お仕事の内容、ご存じみたい。

女性の皆さん。
つきあっている彼氏がギャンブルで大金をすってしまい、あなたに泣き付いたら、びた一文出さないこと。そんな男は、あなたの力では救えません。
彼と心中するつもりなら同情してもいいです。母性愛もいいです。
でも、永い将来を見据えるなら、同情するなと言いたい。そんな男はきっぱりと棄てるべきです。
 政府はカジノ法案をごり押しで国会を通過させました。法律いかんにかかわらず、闇でカジノそこのけの賭博が行われていました。それで身を持ち崩した人の話、聞いたことがあります。

女性を納得づくでフーゾクに売る男がいますよ。心を鬼にしてつまらぬ彼氏は棄てることです。



昔のことですので、トルコ風呂と表記しましたが、トルコ大使館から苦情がきたそうですね。いまならフーゾク産業でしょうね。