日高河

 村上華岳の日高河ひだかがわ)      
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 講談社版 日本近代絵画全集22より 土田麦僊 村上華岳 日高河より
 この絵は和歌山県道成寺の「安珍清姫」伝説を題材にしたものである。

 女はいままさに、蛇と化して日高河を渡ろうとしている。
 杖を頼りにひたすらに山道を歩き続けたはず、その杖も入らぬのか、杖を棄て、不気味な色をたたえた河に身を投げようとしている。女の髪はすでに蛇を思わせるかのように鎌首をもたげている。
 空は女に呼応するかのように雨をふらせる。不思議な形の山や木は、まるで中国・六朝時代の絵画の樹木のようにゆらゆらとうねる。
 目をとじた女の顔は、もはや正気ではない。ふらふらとした感じが漂う。

 美しく悲しく詩情ただよう絵である。
 けれどこの絵を(画集で、である)みたとき、じっと見ていると不気味で怖かった。情念の深さにおののいたのかもしれない。そして非現実的だとも思ってしまった。
 最近、ストーカーをしているある女の顔を見て、この絵の事を思い出した。もちろん、この絵のような美しさや哀れさ、詩情は全く見て取れないが、
 いるのだな、怨念のようなどす黒いものに操られる女が、ほとほと感心したというか、背筋がぞくっとした。

 しかし、華岳はすごいです。