わが子を守った猫

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写真機〔欧襯縫筌鵐拭/音僂一番可愛い。おとなしいからね
写真供’守の夢に出てくる四匹のポルターガイスト猫に似た野良猫。猫守がカメラを向けると笑った気がしたけど、拡大して見ると、目が哀しい。

道路に面した、町工場が立ち並ぶ一角は、ごくごくありふれた都会の町工場の風景ににている。
その工場の近くに公園があった。
公園が近くにあるということは、そこをねぐらにする野良猫が多いということでもある。

その猫もそんな一匹だった。


「畜生でもなんでもなぁ、孕んでいるものは大事にしたげなあかんで。命がけで子を生むんやから」
猫守の母はそう言って、野良猫に餌をやっていた。
その猫が、生んだ子をたべてしまったらしい。
「自分の子を食うような畜生は来るな」
ホウキを振り回して母はその野良猫を追い返してしまった。
猫は危険を感じるとそうするらしい。


公園の野良猫に話をもどそう。
ぽかぽか陽気のある日、昼休み。
工場の人たちは弁当を食べ終わり、日だまりで日向ぼっこしていたのだ。
Yさんもそうだった。道端にすわって、おしゃべりしながら大通りを眺めていた。
「あれっ。あいつ、いつのまにか子猫を産みよった」
 Yさんはそう思った。
Yさんは人好きのする、年配の人だという。ペットはいたかどうか聞きもらした。

その猫、四匹の子猫をひきつれて道路の向こう側にいた。
毛色こそちがうが、どこかの宅急便のマークみたいに、一匹ずつ首根っこをくわえて道路をわたる。三匹のちっちゃいのがYさんの眼の先にちょこんと座っている。
最後の一匹をくわえて、猫が道路をわたる。
車だ。道の先の信号が変わったらしい。
車は猛スピードで走ってくる。猫も必死。スピードを上げた。
けれど車にはかなわない。
見ていたみんなが
「ああーっ」
目を覆った。
ドン。
ああ、やはり、だめか……。
車はそのまま走り去った。
猫の一匹や二匹、なんだいってなもんだ。
人間をはねてもそのまま逃げてしまう輩(やから)がいるのだ。

はねられた猫がよろよろと起き上がった。どうしたことか口には子猫をくわえたまま。
しかも子猫ときたら無傷らしい。
生きてたのか、よかった。見ていただれもが顔をほころばせた。
それにしてもひどく血を流している。こんどはそれが気になった。
猫はよろよろと、それでも子猫をくわえたまま道路をわたり、Yさんの目の前の縁石までたどりつき、ぱたっと倒れてしまった。
猫ながら母猫の身に異変が起きたことを感じ取ったらしい。子猫たちが母猫によりそいニャアニャア鳴き続ける。
Yさんは思わず子猫たちに駆け寄った。
「ノラさんや、おまえの子猫、わしがぜんぶ面倒みたるから、安心せぇよ。おまえはみあげた母ちゃんやのう。猫のなかの猫や。成仏せぇよ」
Yさんは四匹のお父さんになった。
四匹の猫は工場でかわれた。
当時、左前だった工場は持ち直し、すごく注文が舞い込むようになった。それで、福猫だとかあのノラさんの恩返しだよとか言われた。

あの四匹の猫、三匹は三歳くらいまでしか生きなかった。車にはねられて死んだそうよ。
一匹は一歳になるまえに、近所の誰かに虐待されて死んでたんだって。