ニャンとも迷惑なネコ女

野良猫の保護をしてらっしゃる方々のブログを拝見して、複雑な思いがしてなりません。

こんなこと言ったら、怒るだろうか?
野良猫はつらかろう。出来ることなら幸せになってほしい。それに個性的な猫はノラに多いのも事実である。

でも、ここに引っ越してきて十四年、こんなに野良猫を嫌だと思ったことはない。
「宅(たく)を買うなら隣(りん)を買え」とは中国の史書に出てくる言葉である。
家を買うなら環境を重んじなさいという意味だが、身につまされる思いで、この言葉をかみしめている。

どこにも少しばかりの野良猫はいる。今まで見てきた野良猫は許容範囲だった。それも、実害が少なかったからだ、と思う。
ここの野良猫ときたら、数と言い、実害といい許容範囲を超えていた。
窓を開けると臭い。臭いの源をたどっていくと猫の糞だ。それも無数の。
目にチカチカとくるアンモニア臭と悪臭。思わず嘔吐しそうになる。
見かける猫は五、六匹なのに……。

全共闘よろしくタオルできりりと口を覆い、ゴム手袋をはめて掃除する。家の周りを掃除しただけでスーパーマーケットのポリ袋がほぼいっぱいになる。
洗い流せるところは水で流して清め、消毒のためにクレゾール液をまく。
来る日も来る日も一時間ほどかけて掃除だ。
猫の糞いがいにも悪臭を立てるものがある。コンビニなんかで売っている弁当や、土まみれの握り飯だ。だれかが建物の横にほうりこむのだ。食べ残しが腐敗して悪臭を放つ。

生ゴミ回収日は必ずゴミ袋が食いちぎられ、ごみが散乱している。
一体、どうして?
屋外ガレージにはなんか、いつも覚えがないごみが散らばっていて、車に動物の毛がごそっとへばりついている。
だれかが餌をばらまいているらしい。
無性に腹が立って、それとなく見張っていた。
ある日、特別朝早く、新聞を取りに表に出た。
あっ。
斜め向かいの奥さん、ざっと数えただけで三十匹ちかい大猫に子猫に取りかまれて、猫なで声で餌をやっていた。
犬小屋をいつも道路わきに出していたが、犬は室内犬で、猫守がベランダに出ると甲高く無駄吠えする。犬小屋は空っぽのはず。犬小屋に猫の餌を置いていたのだ。はて、猫はどこで飼っているのだろう。
その家の隣は、空き地で、建築会社の資材置き場になっている。そこで飼っているのだ。

お腹いっぱいになった猫どもが、いっせいに猫守の家を目指して道路を渡ってくる。花を植えたところにもぐりこもうとする。
シッシッと追っ払おうとすると、猫守を威嚇する。こいつらだ。
手を振り上げると逃げて行った。
しかし、糞害はおさまらない。

猫対策に疲れ果てた。猫は増え続け、ある日、ざっと見たかぎり五十匹を超えた。
向かいの奥さん、なにを隠そう、猫守が密かにネコ女と呼ぶ彼女は、
近所でも有名らしい。夜になると変装して、茶髪のかつらかぶったりして、近所にネコの餌をばらまきにいく。時にはパジャマ姿で。パジャマ姿だと「ご近所さんか」と思いこまれ、怪しまないと信じているらしい。
増えすぎた猫の始末に困り、猫まで方々にばらまいたり、捨てたりし、自分は餌をやりに歩いてたのだ。
猫守のガレージにも三匹、猫をおいた。ネコ女の猫はたくましい。
ご近所に猫はあふれかえり、壁をよじ登ってベランダで悪さをする。ついでに糞まで残していく。
猫守はノイローゼになりかけた。

その夜も風呂に入っていると風呂場の外で、ガサガサと音がした。また野良猫だ。
猫は水を嫌うという。窓からシャワーを突き出してジャー。なんだか水音がちょっと変。なにかに吸収されたみたいで、勢いのよい水音がしない。きっと、猫を直撃したのだろう。

翌朝、新聞をとりに出た。
ネコ女が勢いよく、表に飛び出して来て、猫守をぐっと睨みつける。なんだろ?
???
「ゆうべ、風呂場の外にもぐりこんでいたのはネコ女か」
悟ったのです。シャワーをかけられたのはネコ女だと。
しかし、あそこは猫守ん家だぞ。あんた不法侵入でしょうが。

猫守の家以外に、よその家の裏にも忍び込んでいるらしい。それで苦情をいわれたらしい。

もとはと言えば、ネコ女がちゃんと猫に避妊手術を受けさせておけばよかったのだ。自分で責任持てる数だけ飼って、トイレのしつけをきちんとしておけば地域猫として可愛がられたかもしれない。
だから、野良猫の保護といちがいに言っても、複雑なの。
ベランダの水槽のタナゴ、全滅したものね。