,猫の幽霊

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のどかなニヤンタ

Yさんがまだ猫アレルギーじゃなかった時のことだ。
わが子を守って死んでしまった野良猫をほめたたえ、四匹の子猫を大事に育てた。
三匹は雄で一郎、二郎、三郎と名付けられ、雌の子猫はミーコと名付けた。

少し大きくなると一郎と二郎は交通事故で死んだ。三郎も成猫になると交通事故で死んだ。
ミーコが一番長生きした。
ミーコは母親になり、ミーコそっくりのおしゃまな子猫を産んだ。
「かわいい。その猫、福猫でしょ。よかったらくれる?」
と、子猫たちはみんな飼い主が見つかった。

あっちこっちで愛嬌を振りまいていたミーコだったが、ミーコもまた三年ほどしか生きられなかった。交通事故だった。

ミーコが死んでから、工場のなかではちょっとした異変が続いた。
ミーコがとっとっと、工場のなかを歩いている。
「えっ」
驚いて目を瞬くと、ミーコの姿は消えている。

ミーコはよく、工場のなかを巡回していた。
机の下に潜り込んだり、机の上で「遊ぼう、遊ぼう」と転げまわったり、みんなの仕事ぶりを社長のように見て回る。社長以上に社員の仕事ぶりを知っていた。

「あれは目の錯覚やろ」
「いや、いや。ミーコの幽霊やで」
「ミーコの幽霊やったら」
弁当を食べながら、みんなで好き勝手に言い放題。
そのころ、ひんぱんに物がなくなった。
物がなくなると言っても、定規だとか、ボールペンだとかの類である。でも、それはミーコがよくいたずらをしてどこかに隠してしまう品々だった。
「これっ。ミーコ、おいたしちゃだめでしょ」
だれかが思わずそういった。
そういいながら捜すと、失せ物がみつかる。
「ああ、やっぱりね。ミーコちゃんが隠してたのや」
見えないミーコに向かって言う。
ミーコは幽霊になって工場に住み着いていたらしい。みなが遊んでくれないのでつまらなくて、さまざまな物を隠していたらしい。
そういうことがしばらく続いた。
ミーコはやっと自分が死んでしまったことを悟ったらしい。物がなくなり、思わぬ場所から出てくることもなくなった。書類が散らばることもなくなった。

「ミーコの幽霊やったら大歓迎やったのに。成仏したらしいぞ」
Yさんはさみしそうだったと聞く。