ニヤンタがいない!

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写真一。はやしたてると澄まして現れる。
写真二。子猫のころの純真なニヤンタ。この頃は飼い主を神様のように思っていた。息子の教育が災いして、このごろはよく、猫守をからかう。

毎日毎日、窓ぎわで外を眺めていた。
とくに野良猫たちの勝手きままな振る舞いを見ていると、
猫ながら、「山の彼方の空遠く幸せの住むという……」なんて気持ちになったらしい。
ニヤンタは三歳と少し。

外へ出してくれと「あうん、あうん」と鳴くので、ケージに入れて玄関ドアの前に置いておいたのだ。
ケージの中で満足そうに寝そべって往来を眺めていたので安心してそのままにしておいた。
四十分後、外に出てみると、ケージのドアが外れていて、ニヤンタがいない。
はっ、逃げられた。これで六回目の脱走だ。

一回目と二回目は必死になって捜しまわった。
一時間半くらいすると帰ってきた。
それ以降は、四十分ほどで戻ってきた。
六回目は、暗くなっても戻ってこない。
雨が降り出したので、すぐに戻ってくるだろうと思ったのに。
一時間半くらいして、ガレージに猫が現れた。
「ニヤンタ、さあ、おいで」
猫、うちの猫だわ、ね。
猫はしらんぷり。そしらぬ顔をしてすっすっすつと、家の横に消えた。
いつもだったら、呼べば「にゃあ」とへんじするのに。
あれ、ノラ猫だったのかしら。とにかく暗くてよくわからない。
雨はざあ、ざあ。近畿の北部では豪雨だ。こちらでも一時、すごかったわ。
なのに、ニヤンタは戻ってこない。
増水した溝に墜ちて死んだのかしら?
車にはねられたのかしら?
悪いことばかり脳裏をよぎる。
夜の十時半過ぎ、玄関に立っていると何かがすっと脛をなでていく。ん、猫。
猫が開けたままのドアから中に滑り込む。
「あ、ニヤンタ」
びしょぬれのニヤンタ、抱き上げると抵抗しない、なすがまま。
風呂場へ直行。哀れっぽい声で「お風呂はかんにんして」と鳴く。
だめ、だめ。汚いもの。

どこでどんな冒険をしてきたものやら。
ドライヤーを嫌がって逃げたくせに、生乾きの体を猫守にくっつけて離れない。
なのに、
なのに、
懲りないニヤンタ。昨日も、今日も、自分からケージに入って「外に出して、外に出して」とうるさく鳴く。
「メッ。ニヤンタみたいな甘えん坊は、外へ出たら死んじゃうの」
猫はずるい。
ぼく、なにもしないから。
その言葉を信じると、コロッと騙され、ひやひやし通しなんだ。帰ってきてホント、よかったけど。