掃除機ねこが掃除機を怖がるようになった

掃除機が動かなくなった。
感慨無量である。
この掃除機は亡き両親が買ってくれたもので、三十年ものあいだよく働いてくれた。
とても簡単な構造で、紙パックもいらない。ゴミがたまるとぽいと捨て、あとは丁寧にほこりをとってやるだけでよかった。文句一つ言わず三十年間働いて、突然、なんの前触れもなく沈黙してしまった。

もう一台、掃除機があるが、一階と二階に持ち運びするのが面倒だ。
下においておくと一階は掃除が行き届くけど、二階がほこりっぽい。
息子がうれしそうにサイクロン式の掃除機を買ってきた。
「店じまいセールで定価の半額やわ」
「へぇー。半額」
得した気分。

喜んでいたら、今度は店舗新装開店セールの案内状が届いた。
台数限定だが、買った値段の半額以下で似たような掃除機が買えるではないか。
案内状をみたら、息子はがっくり首をうなだれるだろうな。
ああ、世の中、不可解だあ。

サイクロン式の掃除機、スイッチを入れたとたんにニヤンタがぱっと逃げだした。部屋の外から
「おっかねぇ」
こわごわ顔をのぞかせている。

モーターの音が違うものね。
ニヤンタもまあ、世間並みのネコにもどったらしい。

一階で旧式の掃除機をかける。
音を聞きつけてニヤンタが駆けつけ、掃除機のまえでコロン、コロン。
「ぼくの体、きれいきれいしてー」
慣れた掃除機は大好き。
サイクロン式の掃除機を怖がってくれて、猫守は内心ほっとしている。
お馬鹿なニヤンタが掃除機に吸い込まれてしまい、
猫守は青くなって、掃除機ごと動物病院にニヤンタを運ぶなんて……ことにならなくて万歳。