幽霊だと思うけど

幽霊を見たなどと言えば、わたし、変な人だと思われるでしようね。
でも、あれは幽霊としか思えないのです。
 
 五年まえだったかしら、秋の夕暮れ、市営の墓地にお墓参りに行ったのです。
 お盆やお彼岸には墓地は墓参りの人でにぎわい、食べ物を売る屋台まで見かけますが、平日の、ましてや秋の夕暮れなど人っ子ひとりいません。
 父の月命日だったのでどうしてもお参りしたかった。でも、大好きなファンクダンスがある日だったのでそれも受けたい。で、ダンスが終わったあとにお参りに行ったのです。だから、夕暮れになってしまったのです。
 お墓の掃除が終わって拝んでいると、斜め奥の墓石の方で白いものがちらちら動いている。
 あれ、他にもお参りの人がいたのかしら?
 それにしてもお線香の煙が立ち上っていない。? わたしは立ちあがって白いものを見た。むこうも立ちあがってわたしを見た。二十代前半の中背の美男子がわたしを見ていた。こい眉、黒目がちの大きな目、田村正和に似た甘いマスク。白いワイシャツと黒いスラックス姿だった。顔色がひどく悪い。白くて青みがかっている。白百合の花の奥をのぞくと、白にかすかな緑がかかっているでしょ、ちょうどそんな顔色をしていたのです。
 その美男子が音もなく、歩くと砂利道だから音がするのですが、すたすたとわたしに歩み寄るのです。わたしはじりじりと後ずさりして、走って逃げた。
 追って来なかったです。車に駆けこむと猛スピードで墓地を脱出しました。
 
 わたし、二度ほどひどい貧血で、ぬけるほど色白になったことがあります。貧血の時はぱっと立てないのですよ、くらくらとめまいがして。あの美男子、貧血を通り越した顔色をしていてぱっと立ちあがり、すたすたと歩いたのです。やはり、幽霊なのかしら。じっとわたしをみつめながら歩いてきたのはなぜ?
 
 それから平日の墓参りは日中のみ、と決めました。
 あの墓地、出るんですわ~。タクシーの運転手さんが言っていたっけ。だから、夜はあそこへいくお客さん、断っていますとのこと。
 
 きのう、お盆の墓参りに行った。
 あのあたりだったと、例の墓石の方を見ると、移転したのか墓石が取り払ってあった。
 なにか、わたしに伝えたいことがあったのかしら? いまだに謎であるが。