幽霊の子守をさせられた少女

 父が子供だった頃に本当にあった出来事です。
 
 父が生まれ育った港町は北側に山があって、海の幸と山の幸に恵まれた美しい町でした。
 昔はみんな貧しくて、小学校にも行けない子供が大勢いました。そんな子供たちは口減らしのために奉公にだされたそうです。
 その子守の女の子もそうでした。女中奉公にはまだ幼すぎたので、大きなお屋敷で子守をしていました。
 この子守には変わった癖がありました。夢遊病というのでしょうか、夜中になるとむくっと起きて、そこらじゅうをふらふら歩きまわるのです。まわりの者がびっくりして「これ、どこへ行く」と、子守をつかまえて体をゆさぶったり、頬をぴしゃぴしゃ叩くとぱっと目をあけて正気にもどるそうです。正気に戻った時、自分がなぜこんな所にいるのか、何をしていたのか全く覚えていないそうです。
 その夜もそうでしたが、その夜にかぎって子守が寝床を抜け出したことに誰も気がつかなかったそうです。
 夜が明けるとお屋敷は大騒ぎ。子守がいないのです。
 みんなで捜しまわったそうです。寝ぼけたまま溝にでも落ちたのではなかろうか。
必死になって捜しまわりましたが、どこにもいません。
 警察にも届け、捜索隊を作って山狩りまでしましたが、それでも見つからない。山には共同墓地があって、そこも捜したが見つからない。最後の手段とばかり、巫女に頼みました。巫女は鉦や太鼓をたたいて神がかりになり告げたました。
 「その娘は気の毒だがもう死んでいる。墓地じゃ、共同墓地のどこそこにいる」
 
 墓地なら捜したがなぁ。巫女さんがそういうなら、もう一度行ってみるか。
 捜索隊はもう一度、墓地まで行き、お告げのあった古い墓を捜したそうです。
 するとまあ、あの子守が髑髏を抱いて死んでいたというではありませんか。
 町のみんなは、あの娘は幽霊の子守にとられたと噂するとともに、巫女の不思議な力に驚いたそうです。
 
 小さいころ、この話をきくと怖くてお手洗いに一人でいけませんでした。
 大人になると、この子守は変質者に殺されたのではなかろうか? あるいは、見てはならないものを見てしまった(彼女は寝ぼけているので見ていないのですが)ために殺されたのではなかろうか? なんて思ったりもしますが、遠い遠い昔の出来ごとです。
 
追記
 山の墓地までは一里(およそ四キロ)、眠ったままそんなに遠くまで歩いたものだと、みなで驚いたそうです。また、当時はまだ電気が通っていなくて、ランプで生活していました。