さくら幻想紀行 摩訶不思議の都 慶州 下
さくら幻想紀行 摩訶不思議の都 慶州 下
むかし、都に麗しい女がいた。人は彼の女を桃花女と呼んだ。新羅第二十五代の王、真智王は桃花女に心が動き、挑んだ。
拒んで桃花女は「わたしには夫がいます。貞節な女は二夫にまみえぬもの」といった。
「殺されてもか?」
「たとえ都の市で斬られようとも夫が存命ならば」
「ならば夫亡きあとならば」
「そのときは仰せにしたがいましようぞ」
王は笑って桃花女を放した。これは王の在位四年のことだという。
王の世は乱れ、荒淫だったのでほどなく国人は王を廃した。廃されて間もなく王は死んだ。
それから三年後に桃花女の夫が死んだ。死んで十日めの夜、忽然と真智王が現れて、「昔の約束を覚えておるか」といった。王の姿は昔のままである。桃花女は恐れて両親に告げると「君王の命令なればどうして避けられようか。従いなさい」とのこと。
桃花女の部屋に籠ること七日にして王はいずこへともなく去った。
月満ちて桃花女は男児を産んだ。この子は鼻荊と名付けられ、やがて宮中でそだつ。大きくなると鼻荊は夜な夜な宮中を抜け出し都の西で鬼たちと遊んだという。
この鬼は角を生やしていないし、虎の皮の褌もはいてない。
中国の鬼は亡鬼、幽霊のことである。
写真は中国南京市の石頭城の城壁です。
壁から突き出た顔のようなものは鬼の顔で、夜な夜な鬼が泣くらしい。これは有名な話です。石頭城は軍事の拠点として築かれ、数々の血塗られた出来事があった城です。(写真はグーグルMapより)
鼻荊が遊ぶ鬼たちは寺の暁の鐘の音をきくと姿をくらませたといいます。
この鬼たちは亡鬼ではなかったらしい。鬼の中で才能ある者を抜擢して官職をあたえたところ、ある日、狐の本性を現したとあります。幽霊が子を産ませたり、鬼やら狐やら、なにか歴史に隠された影の存在に惹きつけられる。
とにかくわたしは飛行機で釜山へ。見物して釜山で一泊。早朝、暗いうちに車で慶州へ向かった。花見のときには道路が渋滞して進めないからだ。五時前に車に乗った。すいすい進んで、慶州が近づくにつれ、鋭かったヘッドライトの明かりが鈍くなり、道路沿いに白々と白い雲のような桜並木が流れる。
ああ、さくらだ。
うつろう陽光とともに色をかえるさくら。
慶州は近い。
突然、空が金色に輝いた。わたしの体は重力を失い尊い空の金色にさらわれている。
金色の空のしたはほの白い花の雲。花の雲のしたは夜の気配がひしめいている。
黄金まばゆい空、世界は黄金色で輝いていた。
あの空に浮揚し雲と一体になった感覚はなんだろう。まるで古都に魅せられたわたしを、古都が黄金の光で歓迎してくれたように思えた。
後日、知り合いにこの感覚を話すと「御来光を見たんだ。その感覚を味わいたさにしんどい思いをして山に登るのよ」と言われた。あの神秘な体験、新羅の山の神々がわたしを受け入れてくれたからだと思うことにしている。
延烏郎は日本のどこへ行ったのでしようか?
ネットで延烏郎を検索すると、出羽弘明氏の新羅神社考という連載を見つけました。こつこつ歩かれて集めた資料が豊富な労作です。
http://www.shiga-miidera or jp/serialization/sinra/116htm
ほかにも出雲だとかいろんな人がいろいろ書いておられますが……。
これは吉野の桜。写真、屋根裏にとりに行かないとだめなので。
そのうちに慶州の写真ばかりのせます