祟る魯粛

             祟る魯粛      


 王伯陽の家は京口にあったが、宅の東に一つの冢(つか)があった。この冢は魯粛の墓だと言い伝えられていた。

 伯陽の婦(つま)は郗鑒(ちかん)の兄の娘である。婦が亡くなったので伯陽は冢を平らに削ってそこに埋葬した。数日後、伯陽が昼間、役所で座っていると、肩輿(けんよ)に乗った一人の貴人が供の者数百人を従えてあらわれた。その供の者や馬がひっきりなしに行きかう。肩輿は遠くから近付いてくると伯陽にいった。

「身(われ)はこれ魯子敬なるぞ。君は、なにゆえにわが冢(つか)を毀すのか」

 言い終わると供の者に目配せをした。供の者は、伯陽を牀から牽き下ろすと、刀鐶(とうかん)でもって伯陽を撃つこと数百回、気がすんだのか、立ち去った。伯陽は気絶してまた蘇ったが、撃たれたところにみな悪性の腫れものが生じてつぶれた。そのせいで、数日後に死んでしまった。

 

 また一説によると、伯陽が亡くなったのでその子が墓を営んだところ二つの漆の棺を得て、南岡に移して安置した。夜、夢に魯粛が現れ怒って云った。「まさに汝の父をころしてやろうぞ」と。まもなく夢に伯陽が現れて云った。「魯粛とわれは墓を争っているが、われは日夜、安んずることができないでいる」と。のちに霊座の褥(しとね)の上に数升の血がついていたので、魯粛のせいだと疑った。魯粛の墓はいま、長廣橋の東一里にある。

 
 

注*冢(ちょう)

  つか。高大な墓

  もりあがった丘、社、大きい、長子

注*絡繹(らくえき)

人馬の往来などが絶えまなく続く様

 

注*遥

 さまよう。はるか、とおい。ながい。はやくいく。みだら

注*目

  めくばせする。

注*刀鐶(とうかん)

  刀の頭部につける鐶()

  鐶の音と還の音が同じなので、刀鐶は帰還の隠語になった。

注*疽()

  悪性の腫れ物の一種。背中などにできる。癰 (よう) の類。

 
注*斵(たく、ちょく)
  きる。けずる。

 
太平広記 塚墓一 王伯陽
   Chinese Text Projectより 拙訳