「鬼の足音」 道尾秀介(角川書店) はすごい

「鬼の足音」はすごい。
猫守はびっくりした、道尾氏の才能に。(足音の足の字は本当は、恐の字の心が足になった字なのだ)環境依存文字なの。
その中の「冬の足音」がとくに光っていた。しかし、これは構成に苦労したろうな。しかも、この構成は二度と使えないのだ。舞台裏をのぞかせてしまったからには、手品の種がばれたも同然だから。洗面器一杯分の作者の脂汗を感じる。
これから「鬼の足音」読もうとする人にとっては、このブログ、妨げになるかもしれない。小説読んでからにしてください。
一瞬、谷崎潤一郎の「春琴抄」を思わせる設定だなと思った。道尾ワールド特有のカラス、S、をはぎ取ると「春琴抄」を思わせる。ところがどっこい、道尾ワールドだ。谷崎の耽美的残酷と打って変わり、道尾氏のペンは人の心の恐ろしさをえぐり取る。まことに人間こそは鬼である。素知らぬ顔で心に鬼を住まわせている。そして愛の残酷さ……。
「わたし」の犯罪をすべて暴くであろう、鬼の足音を聞きながら、「わたし」は短い幸せに酔っている。
この短編集は実に面白かった。猫守はずいぶん前から小説が面白くなくなり、漢文ばかり読んでいた。
たまたま、ミステリチャンネルの懸賞にあたって、「鬼の足音」を手に入れたのだが、面白くて一気に読んでしまった。懸賞にあたるのも稀有なことであるが、道尾氏の稀有な作品に出合えてよかった。すごい作品、もっと読みたくなった。