方術の成果は?

            方術の成果は?

 李長源はいつも服気導引の術をおこない、あわせて禹歩(うほ)方術のことを学んだ。

  注*服気導引(ふくきどういん)
  服気とは気を服すること、長生養生のための一種の呼吸法である。導引は長生法の一つで、亀の呼吸、屈伸に手本を取った呼吸法。これは長生には効果があるが、不老不死には丹薬を飲まないといけないそうだ。


  注:禹歩(うほ)
  これは禹が片足を引きずっていたことに由来している。
  『抱朴子内篇、巻十一、仙薬』によれば、禹歩とは、まず左足を踏み出す、右足を左足の前に出す。左足を右足にひきつける。これで一歩である。次に右足を踏み出す。左足を右足の前にだす。右足を左足にひきつける。これで二歩である。次に左足を踏み出す。右足を左足の前にだす。左足を右足にひきつける。これで三歩、計二丈一尺、足跡が九つ残る。
 禹歩で呪文を唱えながら歩くのであるが、呪文の代表的なものは『臨兵闘者皆陣列前行』の九字だという。


  注*方術
  中国に古くから伝わる土俗的な呪術で占いや呪い錬金術などである。
 
学ぶことおおよそ数十年に及んだが、自ら神霊の精妙を会得し、仙道すでに成ったと言っていた。遠近の輩は親しみ敬い師事するものは甚だ多かった。
 洪州は、昼間に火災が発生し、猛烈な風にあおられて火炎は激しさを増した。
注:洪州(こうしゅう)
 今の江西省南昌市
イメージ 1江西省南昌市の代表的な建造物 滕王閣(とうおうかく)
写真はグーグルマップより


 

 炎は北から走ってくる。家人らはおろおろして、建物を壊し籬(まがき)をたおして延焼を食い止めようとしたが、長源がこれを止めた。とうとう長源は屋根に上ると、禹歩をしながら禁呪(まじない)を唱えた。時すでに火がせまり、いよいよ激しく燃え盛った。長源は声高らかに呪いを誦(とな)え続けた。ついにほとばしる火や飛ぶ火炎が、真っ先に長源の体にまといつき、めらめらと燃え上がった。そして長源は屋根の上から地べたに転げ落ちてしまったのである。
住んでいた家はきれいさっぱり燃え尽きてしまい、家財も衣服もまた一つ残らず灰になってしまった。そればかりか図籙や呪いの道具までことごとく灰燼に帰した。
 
注* 図籙(とろく)
  未来の吉凶禍福を予言した記録。未来記。予言書。

太平広記妖妄二 李長源より Chinese Text Project 拙訳


悲惨な話ですが作者のシニカルな視点と、なんともいえぬ滑稽さをだすために
少し意訳しました。また、意訳しないと次のへの展開が理解でないきらいもあります。