猫の感情表現は抑制がきいているけど

バジル家のマルちゃんは、
もとはノラ猫の子です。
色は白地に茶色の牛柄。
うさぎみたいな尻尾です。

子猫をくわえて運ぶ某運送業のニャンコマークのように、ノラさんがマルちゃんをくわえてのそのそと
けだるそうにバジルさん家のブロック塀の上を歩いてたそうです。
ぽとっと、マルちゃんをバジルさんの家の庭に落として、面倒くさそうに通り過ぎていったんだって。

まっ、なんて親猫だろ。わが子を置き去りにして、知らん顔だ。
あとで、親猫が連れにくるだろうと、バジルさんは子猫を菓子箱に入れてそのまま、そこに置いておいた。
でも、引き取りに現れなかった。

親猫にインタビューしたら
助けて。あたしを責めないで。
あたし、子だくさんの風来生活、ろくに食べていないわ。
ほうら、自慢の器量だって所帯やつれして見られたもんじゃない。
きっとそう答えたでしようね。

そのようなわけでマルちゃんは、バジル家の一員になりました。
動物病院でもらった猫用のミルクですくすく育ち、
名に恥じない丸顔は招き猫そっくり。

親猫は引き取りにはこなかったけど、近所の野良猫たちがゾロゾロとブロック塀の上に集結して、家の中をのぞいていたそうです。
気持悪かった、ヒッチコックの「鳥」を連想したわよ。
そのなかに、マルちゃんそっくりな成猫がいたから、あれが親猫かなと思ったそうです。
そのうち、猫どもは引き上げていったそうです。
なんだろう、猫の顔見せ?

そのマルちゃん、今年のお正月に具合が悪くなったそうです。
バジルさんのご主人は脳梗塞で、ずっと自宅で療養していたのですが、
バジルさんが体調を崩したので、去年の十二月から介護専門のホームに
入所。それでご主人のベッドを片付けたのですって。

マルちゃんはご主人がいなくなるは、ご主人のベッドがなくなるわで、ご主人が戻ってこないと思い込んだらしいのです。
猫のことだから、複雑なことは説明してやれないし、ホームにマルちゃんを連れていけない。
マルちゃんは、ひどく落ち込んだらしく、
それがもろにマルちゃんの心と体にダメージを与えた。
お正月に吐いた、元気がない、餌をあまり食べない。
で、動物病院へ。

自家中毒ですね。
えっ、猫の自家中毒
最近、環境が変わりませんでしたか?
ええ、激変しました。
それそれ、それが原因ですね。

バジルさん、マルちゃんのとぼけたような「招き猫顔」に隠された深い悲しみに、思わずマルちゃんに頬ずりしたことでしょう。

猫って、犬のように騒々しいまでに感情を表現しません。猫の感情表現は日本人的、抑制が利いているのですね。だからこそ、気をつけてあげなければ。

猫守の猫ばかぶりも、いよいよ磨きがかかってきて、ほんと、とうなることやら……。